生産者インタビュー

( INTERVIEW 01 )

2026.03.25

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自給自足に憧れてはじめた農業と、続けていくために変えてきた働き方

小黒農場 小黒裕一郎さん

PROFILE

1979年横浜生まれ。大学卒業後の数年間、夏~秋は自転車の旅(国内、海外)、冬~春はスキー、という時間を過ごす中で、自然豊かな環境で自給自足する生活を思い描く。2005年に夫婦で山梨へ移住し、NPO農場で6年間有機農業に従事。環境により負荷をかけない方法を模索し、自然栽培に出会う。2011年に独立就農し、自然栽培で野菜作りをしている。得意な品目はトマト、とうもろこし、さやいんげん。北杜市認定農業者、山梨県アグリマスター。これまでに北杜市農業委員、山梨県青年農業士など。

● 独立就農 : 2011年
● 現在の農地面積 : 1.8ha
● 現在の栽培品目数 : 5品目
● 従事者 : ご本人と季節雇用1名

金銭面は厳しくても多くを学んだ「修行期間」

出身は横浜で、農業にはまったく関心がありませんでした。旅が好きで、国内外色々なところをまわるなかで、徐々に自然豊かな環境で自給自足する生活を思い描くようになりました。

「農業に関わりたい」という妻の希望もあり、帰国後に農業できる場所を探して、人づてで紹介されたのが北杜市で活動していたNPOだったんです。最初は無給のボランティア。2年目からは月に50,000円くらい貰えるようになって、そこからスタッフとして働いてみないか、という声がかかりました。研修生という位置付けでしたが、自分で種を撒いて収穫して売れば、経費を引いた残りをお給料として貰える、という形で、ある程度農場を任せてもらえるようになりました。それでもようやく月に100,000円くらい。金銭面では厳しい生活でしたが、農業の勉強をする修行期間として、自分としては良い期間でした。

独立の際も、人間関係ができていたおかげで、農地探しに困ることはほとんどありませんでした。北杜市は休耕地も多く、NPOが有機・自然栽培の土台を作ってくれたことも大きかったです。

自然栽培に興味を持つように

最初は有機栽培でやっていましたが、ここは水源地の“最上流”。 大量の肥料が川に流れ込み、環境に負荷がかかっているかもしれないと考えるようになりました。「使った肥料のすべてが野菜に吸収されるわけではない」という現実にも向き合い、無駄を減らしたいという思いが強くなっていきました。

そんなとき、自然栽培農家の木村秋則さんの講演を甲府で聞き、「できるんだ」と確信して方向転換を決めました。ただ、いきなり完全移行は難しいので、有機栽培で収入を確保しながら、5〜6年かけて自然栽培を増やしていきました。完全に自然栽培になったのは、農業を始めて10年以上たってからです。大変ですが、どの栽培方法にも共通の大変さがありますし、「自然栽培だから特にこれが辛い」ということもないです。

北杜市で就農してみて

北杜市の農業の特色として、首都圏に近いことや、近隣に有機・自然栽培の仲間が多いことが挙げられます。販路も、自然栽培の生産者や流通関係者が集まる勉強会で知り合った方々との取引が中心で、他の産地と品目・時期が被らない(特にミニトマトやサヤインゲンなど)ため、販売に困ることは少ないです。この地の気候に適した野菜、トマト、とうもろこし、インゲンなどを選んでいるのですが、それが結果的に販売に有利に働いていますね。

▲自家採種のために保管してあるトマト

短期間集中型の農業、冬の間は薪づくりの仕事も

今はそこまでではありませんが、一番きつかった頃は朝5時から夜10時まで働いていました。特に 夏の2か月ほどは、昼食と夕食の時間以外ほぼずっと働き通し。地域全体がそういう雰囲気だったので、「まあ、そういうものかな」と思っていましたが、ずっとは続けられないなと感じました。標高が高い地域なので、栽培・収穫できる期間が限られていて、市内の農家が7〜8か月働けるところを、私たちは5月から11月の半年ほどで勝負しないといけない。だから短期間で集中的に働く必要があるんです。
12〜3月は土が凍って農業ができないので、薪づくりの仕事をしています。山に入って伐採し、薪をつくる仕事です。重労働ですが、農繁期の負担に比べれば短時間で済むし、好きで始めたことなので続けています。民有林にお金を払って入らせてもらい、木を切っています。

体力は無限じゃない、40代からの働き方

今は農業や薪づくりの他に、家庭菜園スクールの講師の仕事もしています。最初は社会的な使命感から始めたもので、収入目的ではなかったんです。でも正直、野菜の生産・販売だけでは体がきつくなってきて。 私は今46歳で、農業を始めて21年目になります。30代までは働いた時間がそのまま収入に反映されましたが、40代に入ると体がついてこない。生産だけで収入を維持するのは厳しいと感じて、収入源を分散させる必要があると思ったんです。講習は「話す」ことが仕事なので、身体の負担がぐんと軽い。
あとは、「しっかり自立して農業で生計を立てる」ということを就農時から目指していたのですが、それなりに答えが出て、もう良いだろう、と思ったというのもあります。

今の働き方と家族時間のバランス

仕事とプライベートとのバランスは、昔に比べるとだいぶ良くなりました。今は朝7時〜夕方5〜6時くらいの働き方です。ただ、7〜9月の出荷最盛期はなかなか休みが取れません。10月に入ってようやく落ち着きます。本当は家族との時間をもっと増やしたいんですが、農業はなかなか難しいですね。今後は自身の講習の仕事をもっと増やしていきたいと思っています。野菜の売り上げを維持することで、講師としての説得力に繋げたいです。

これからの北杜で就農する人へ

最近の就農環境は昔に比べて整っている分、かつて経験したような貧乏生活や泥臭い苦労をする人は少ないのかもしれません。自然栽培で育つ作物は、肥料がないため自らが根を伸ばして養分を取りに行く必要があり、その「苦労」が後の丈夫さに繋がります。人も同じで、厳しい環境も、ある程度は必要だと思っています。ただ、そういう考えはすでに古いのかもしれません。次の世代は、全然違う価値観でやっていくんだろうなと思っています。私たちとは違う考えも、それはそれで良いと思っているので、学び合いながらやっていけたらと思いますね。

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