生産者インタビュー

( INTERVIEW 03 )

2026.03.27

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“暮らし”ではなく、“職業”からはじめる有機農業

野瀬建さん

PROFILE

東京の大学を卒業後、IT企業勤務を経て、有機農業を志すように。茨城県の久松農園で野菜栽培と農業経営を学びつつ、全国を視野に独立の地を探すなかで北杜市と出会い、2020年に家族で移住。趣味は子供に遊んでもらうこと、ラジオを聴くこと。

● 独立就農 : 2021年
● 現在の農地面積 : 4ha
● 現在の栽培品目数 : 7品目
● 従事者 : ご夫婦の2人

暮らしと農業のバランスで北杜を選んだ

北杜に来る前は、茨城県の久松農園で研修をしていました。研修3年目が終わる頃に独立を見据えて就農地を探したんですが、かなり色々な場所を見ました。福岡、和歌山、岡山、静岡、富山、千葉、福島……。一度、候補地を自分の中で「暮らし」と「農業」をXY軸にしてマッピングしてみたんです。暮らしでいうと、富山はすごく魅力的だった。でも、米が中心になる。自分は野菜をやりたかったんです。野菜で、且つ土地集約型というか、ある程度の面積を回すような農業をやりたかった。農業の軸でいうと、千葉はまとまった農地もあり、営農としての可能性を強く感じる。ただ、自分の性格上、農業一色になっていくことが想像されて選べませんでした。最終的に選んだ北杜は、暮らしもそこそこ良くて、農地としての条件もいい。そのバランスで決めました。ある程度まとまった面積が取れること、標高が高いこと、都市圏へのアクセスが良いこと、そして何より魅力的な人がたくさんいること。こういった条件が揃っていたのが決め手でした。

繁閑の波も含めて、ちょうどいいバランス

今は就農して5年程経って、ワークライフバランス的にはちょうどいいと感じています。かなりメリハリがありますね。1〜2月は週3〜4日休めるんですけど、3〜6月は週5〜6日働く。7〜8月、10~11月はピークで、ほとんど休みがなくなります。その代わり、9月は遅めの夏休み、12月はまた落ち着いて、週2日ほど休めるようになる。忙しい時は一気に集中してやって、落ち着いたらしっかり休む。長期でどこかに行くこともできるので、私たち家族としてはこのリズムが合っているなと思います。

狙いを定めて、品目を絞って大きく出す

自分のスタイルは、ある程度品目を絞ってロットを大きくする形です。よくあるのは、就農したてで栽培も安定せず、取引先も小さいことなどから品目数を増やしていくパターンだと思うんです。ただ、それをやっていくと、途中で方向を変えるのがすごく難しくなると考えています。「この品目はあの人との関係性があるので切れない」という判断が増えていく。そうすると栽培効率を考えて大幅に品目を減らすということが難しい。

なので自分は、最初から絞ることを前提に設計しました。物流も通年で回すのではなくて、スポットでまとめて出す。例えば人参であれば、収穫期に合わせてトラックをチャーターして、一気に運ぶ形です。

人参は、全国的に人参が少なくなるタイミングの10〜11月に出荷を集中させています。北海道は夏で終わって、関東の大産地はまだ本格的に出てこない。この時期は、「作れば売れる」状態になります。バイヤーも安定供給のために産地分散を考えているので、価格とロットが合えば取引が成立しやすい。

ほかの作物についても、役割を分けています。キャベツは他の農家と組んで大きなロットで出すことで物流費を削減していますし、玉ねぎやかぼちゃはまた別のグループと連携して自分の規模では投資しきれない設備を借用しながら出荷しています。全部を自分で抱え込むのではなくて、自分の強みと弱さを意識しながら適した形で売っていく。自分にとっては、このやり方が一番ストレスが少なくて、持続しやすい形だと思っています。

“職業としての有機農業”から入る

有機農業には、「暮らしとしての側面」と「職業としての側面」の2つがあると思っています。多くの人は、自然の中で暮らしたいとか、自分の食べるものを自分で作りたいとか、そういう動機から入ることが多いと思うんです。

それ自体はすごく自然なことだし、大事な価値観だと思います。自分自身もその動機に突き動かされている側面は多分にあります。ただ、その延長線上でそのまま経済的にも成立させるのは、実際にはかなり難しい。

暮らしとしての有機農業を重視した営農をしていく過程で「やっぱりちゃんと収入を確保しないと続けられない」と気づいたときに、方向転換するのは相当な負荷がかかります。これまで大事にしてきたやり方や価値観を、一度手放さないといけない感覚になるので。

だから自分は、“職業として成立させる”側から入ろうと考えました。どのくらいの売上が必要で、どのくらいの面積が必要で、どんな作物を選べばいいのか。そういうことを数字で考えて組み立てていく。その上で余裕が出てきたら、暮らしの豊かさや、自分のやりたいことに広げていけばいいと思っています。

「暮らし」から入って「職業」に寄せていくよりも、「職業」から入って「暮らし」に寄せていく方が、精神的にも実務的にもやりやすいんじゃないかという感覚があります。

有機農業の入口として、そういうルートもあっていいと思っていて。まずは生活が成り立つモデルを示すことで、これまで収入面が不安で参入してこなかった人たちにも選択肢として見てもらえるようにしたいです。

方向転換はすごく大変。最初の設計がその後を左右する

新規就農する人には、最初の設計がすごく大事だと伝えています。どんな農業をやりたいのか。そのためにどんな機械が必要で、どういう順番で投資していくのか。最初にある程度描けていないと、途中で苦しくなる。一度走り出してから方向を変えるのは、ものすごく大変なんです。付き合いも増えるし、簡単にはやめられない。だからこそ、最初にしっかり考えておくことが重要だと思っています。

新しい入口をつくりたい

これからやりたいのは、有機農業の新しい入口をつくることです。ちゃんと収益が出るモデルを示して、「これなら生活できる」と思ってもらう。その上で、有機農業の面白さに気づいてもらえたらいい。小さく安定した農園を持ちながら、ゆるやかに人とつながっていく。そういう形の農業も、もっとあっていいんじゃないかと思っています。

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