







( INTERVIEW )
生産者インタビュー
( INTERVIEW 05 )

PROFILE
井上さん:
1980年生まれ、埼玉県所沢市出身。株式会社ファーマン代表取締役。高校卒業後、有機農家の元で研修し、新規就農者として北杜で就農。現在は農作物の生産・販売にとどまらず、新規就農者の支援や福祉施設との連携、農業体験を積極的に受け入れるなど、活動の幅を広げている。
畑山さん:
1976年生まれ、北海道・札幌市出身。大学時代、有機農業のアルバイトをしたことがきっかけで「自然の中で心豊かに暮らしたい」という想いが強くなり、大学院卒業後、24歳で山梨に移住。2003年に農家として独立。現在は、約5ヘクタールの畑で年間約40品目の野菜を、農薬化学肥料を使わずに栽培している。
北杜市の有機農業は、それぞれが違うやり方で農業をし、違う価値観を持ちながら、ゆるやかにつながっています。必要以上に干渉せず、それでも助け合える距離感、その独特な空気が、多くの人を惹きつけてきました。北杜の有機農業は、どのように生まれ、変化してきたのか。そして、これからの担い手としてどんな人たちに来てほしいのか。北杜市の有機農業を牽引するおふたりにお話を伺いました。
井上さん:
畑山さんと話していて、よく「北杜って、自律分散的な産地だよね」っていう話になるんです。
自助と共助の境目がすごく曖昧というか。関わり方の濃淡は人によって違うんですけど、それぞれがやりたいことをやりながら、属したいところに属している感じがあるんですよね。しかも、みんな過度に干渉しすぎない。そこがすごく面白いなと思っていて。
でも、こういう産地って、実はあんまりないんですよ。だから僕らとしては、この北杜のあり方自体が、他の地域の参考になるんじゃないかなと思っているんです。「こういう街にしたい」とか、「こういう産地にしたい」とか。そんなふうに思ってもらえるモデルになれたらいいなって。

畑山さん:
北杜市って、そもそも8町村が合併してできていて、すごく広いんですよ。最初からモデルになる人が1人じゃなくて、いろんな場所に点在していた。だから、「バラバラでもいい」っていう感覚が自然に残ったんだと思います。簡単に会えないくらい距離がある。だから、「あの団体とは別に、こういうことやりたい」って、新しい団体も作りやすかったんですよね。
井上さん:
北杜市って、東京23区と同じくらいの面積があるんです。しかも地域によって、標高も景観も全然違う。八ヶ岳が好きな人もいれば、南アルプスが好きな人もいる。
景色に“やられて”移住してくる人が多いんですよね。「なんで北杜なの?」って聞くと、結局みんな景観の話になる。南アルプスを見て「ここだ」ってなる人もいるし、八ヶ岳を見て決める人もいる。そういう景観が、それぞれのシビックプライドにもつながっていると思います。
畑山さん:
北杜の有機農業の第一世代の方々は、学生運動世代の人たちで、社会への問題意識を持ちながら有機農業を始めていった部分が大きかったと思うんです。ただ、やはり地域との摩擦もあったと聞きます。地元の人とうまくいかないことも多かった中で、それでも続けてきた人たちなんですよね。
僕らはたぶん第二世代にあたるんだと思います。僕自身は、学生時代にたまたま有機農業をやっている人と出会って、アルバイトしたことがきっかけでした。当時、経済一辺倒みたいな社会に疑問を持っていたんです。そんな中で、環境にも良くて、美味しい野菜がちゃんと作れて、生計も立てられるっていうのが、すごく新しく感じて。いろんな地域の有機農業を見て回りながら、自分なりの形を探していきました。
ただ、第一世代の方々を参考にしつつも、ちょっとストイックすぎるなっていう感覚もありました。「この形を少し崩せば、もっと社会的なニーズに応えられるんじゃないか」って思っていたんです。

畑山さん:
僕らも、最初は“お金じゃない部分”を重視していた部分があったし、今ももちろんあります。でも結局、生きていくにはお金を稼がなきゃいけない。そのジレンマの中で、合理的にできるところは合理的にした方がいいよねって、だんだん変わっていった感じがあります。
次の世代には、自分たちが歩んできた道より、もっと合理的な農業をしてほしいなって思っています。共同出荷とか、原料出荷とか、そういう仕組みを使いながら、生産性を上げていく。そういう方向で一緒にやれる人が増えたらいいなって。
とはいえ、合理的にやるって言っても、自営で農業をやる以上、簡単ではないんですよね。考える力もいるし、コミュニケーション能力もいるし、いろんな場面で頑張らなきゃいけない。だから、必要なエネルギー自体は、そんなに減らないのかもしれないです。
井上さん:
“ガチ勢に来てほしい”って言うと誤解されやすいんですけど、僕の中では、「目的と手段をちゃんと分けられている人」っていう意味で、そう言っています。有機農業そのものがゴールになっちゃうと、「有機農業を始めました」で終わっちゃう。でも、「どういう家族でありたいか」とか、「どういう暮らしをしたいか」みたいな目的があった上で、その手段として農業を選んでいる人は、すごく定着しやすいんですよね。
とはいえ、面白いのは、僕も畑山さんも全然そんなタイプじゃなかった(笑)。本当に行き当たりばったりで、「なんか面白そう」で乗っかってきた結果が今なんです。
でも、今の若い世代を見ていると、自分たちの生き方や家族のあり方をかなり明確に描いた上で、農業を選んでいる人が多い。それが実現できているのを見ると、「これはモデルになり得るな」って感じますね。

畑山さん:
今までにインタビューをしていただいた中で言うと、小黒さんは、やっていることの幅が本当に広い方です。自然栽培だけじゃなく、林業もやっているし、加工品も作っている。自然栽培でちゃんと生計を立てている人って、実はそんなに多くないので、その意味でもすごいと思います。
井上さん:
自然農を中心にしながら、林業をやったり、ブッシュクラフトみたいなことも好きだったり。一方で、普通の居酒屋で唐揚げ食べながらビール飲んでたりもするんですよ。でも、本当に真面目で、行政にも取引先にも、人一倍丁寧に向き合う。すごく“ちゃんとした大人”だなと思います。
富岡くんは、もう真正のアーティストですね(笑)。音楽が大好きだし、古武道とか、日本人の精神性とか、サブカルとか、本当に知識の引き出しが多い。でも、一番すごいのは“人を見る力”だと思うんです。その人の良いところを見つけるのがすごく上手い。特に、立場の弱い人や困っている人に対して、自然に優しくできる人ですね。
畑山さん:
農業のやり方としても、実はかなり近い感覚があります。品目数とか、規模感とか、原料出荷を増やしていく方向性とか。最近は一緒に出荷したりもしています。
野瀬さんについては、僕らが「まず動く」タイプだとしたら、野瀬さんは一歩引いて全体を見られる人。客観的に整理したり、新しい視点を持ってきたりしてくれる。北杜の有機農業を盛り上げていく上で、欠かせない存在ですね。
井上さん:
有機農業を始める人って、“衝動”から入る人が多いんですよ。でも野瀬くんは、そこが少し違う。目的と手段とか、抽象と具体とか、そういうことをずっと考えている。かなり異質な存在だと思います。
畑山さん:
北杜って広いだけじゃなくて、土質も本当にバラバラなんですよ。自分の畑の周りでも、一枚ごとに土が違う。火山灰のところもあれば、粘土質のところもある。だから、「このやり方が正解」っていうものが、あんまり成立しないんですよね。先輩農家の方々も自分の正解を押し付けないというか。
井上さん:
それって、農業だけじゃなくて、人のあり方にも結構近い気がするんです。北杜って、「こうあるべき」が強すぎないというか。いろんな人がいて、いろんなやり方があっていい、みたいな空気がある。だから、ちょっと変わった人でも居場所を作りやすいんですよね(笑)。
有機農業も、本来はそういうものだったと思うんです。ひとつの正解を目指すんじゃなくて、それぞれの土地や暮らしに合わせて、自分たちなりの形を作っていく。ここで起きていることって、もしかしたら、これからの地域とか、コミュニティとか、働き方とか、そういうもののヒントにもなっていくんじゃないかなって思っています。

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